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事業承継の基本的な方法及び留意すべき重要なポイント

実際に会社経営を行っている方やその親族の方などは、事業承継という言葉をよく耳にすることと思われます。

事業承継について後継者が先代経営者が行っていた事業を引き継ぐことと、なんとなくのイメージは持っていても、具体的にどのような形で事業承継が行われるのかについては理解していない人が多いでしょう。そこで今回は事業承継の基本やその留意点について解説します。

事業承継の基本

事業承継とは会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。つまりは会社の代表者の地位を後継者に移転させることであるといえます。そうだとすると代表取締役の地位の譲渡や相続であると考える方も少なくないでしょう。

しかし代表取締役の地位は会社を委任者、取締役を受任者とする委任契約であり、委任契約は受任者の死亡により終了するため、相続することができません。また委任契約に基づくためその地位を譲渡することもできません。

そのため事業承継で後継者が引き継ぐものは代表取締役の地位ではありません。事業承継で後継者が引き継ぐのは会社の支配権である会社の株式と、会社経営に必要不可欠な財産(不動産等の資産)ということになります。株式と財産の承継であるため、基本的な方法は相続と贈与という方法になります。

相続による事業承継

相続による事業承継は基本的には民法の相続の規定に従うこととなります。そのため「相続人」と「相続分」の2つの要素が重要となります。

相続人
民法では相続人となりうる人を、被相続人の配偶者及び被相続人の一定範囲の血族と定めています。

血族相続人には順位があり先順位の相続人が相続開始時に既に死亡していた場合や、欠格、排除によって相続権を失った場合にはじめて後順位の血族相続人が相続人となります。

第一順位の相続人は被相続人の子であり、子とは養子縁組をした子も含まれ、嫡出子か否かは問われません。第二順位の相続人は直系尊属であり、第三順位の相続人は兄弟姉妹であると定められています。

そのため被相続人に配偶者の他子がいる場合には配偶者と子供が、子供がいない場合で直系尊属が生きている場合には配偶者と直系尊属が、子供も直系尊属もいない場合で被相続人の兄弟姉妹がいる場合には配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。

事業承継を行う場合には事前に誰が相続人になり得るのかを把握しておく必要があります。

相続分
民法は相続財産に対して各相続人がどの程度の割合で相続することができるかについての割合を定めており、これを法定相続分といいます。

被相続人による相続分の指定がない場合には法定相続分に従って相続割合が決まるため、遺言書等がない場合には、法定相続分の割合を理解しておくことが重要となります。

法定相続分は配偶者と、血族相続人の組み合わせによって定まり、それぞれ第何位の血族相続人が相続人になっているかによって割合が異なります。

具体的には①配偶者と第一順位の血族相続人(子)が相続人の場合には配偶者、子、共にそれぞれ2分の1ずつが法定相続分となります(子が複数いる場合には2分の1を頭数で均等割)。

②配偶者と第二順位の血族相続人(直系尊属)が相続人の場合には配偶者3分の2、直系尊属3分の1の割合が法定相続分となります(直系尊属が複数人いる場合には3分の1を頭数で均等割)。

③配偶者と第三順位の血族相続人(兄弟姉妹)が相続人の場合には配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1が法定相続分となります(兄弟姉妹が複数人いる場合には4分の1を頭数で均等割)。

④相続人が配偶者のみである場合には配偶者が単独ですべてを相続し、⑤血族相続人のみの場合には血族相続人の頭数で均等に分けられます。

相続における事業承継の留意点

上述の通り、相続分の指定がない場合には法定相続分に従って遺産を分割することとなります。そのため例えば3人兄弟の長男を後継者として育てていた場合でも、相続分の指定等を行っていなかった場合には、その長男1人がすべての会社株式と会社財産を相続することはほぼ不可能であるといえます。

そのような事態を防ぐためには遺言により相続分や遺産の分割方法を指定しておく必要があります。もっともその場合にも一定範囲の相続人(配偶者・直系卑属・直系尊属)が有する一定額の財産を取得する権利である、遺留分を侵害することはできないため注意が必要です。

また、相続人がいない場合には、非相続人と生計を同じくしていた者や被相続人の療養看護に努めていた者など被相続人と特別な関係にあったもの(特別縁故者)に一定の財産を与えたあと、残った財産は国庫に帰属することとなります。

そのため相続人がいない場合に事業承継を行う場合には相続という方法は取りえず、必ず経営者の生前に対策を取る必要があります。

贈与による事業承継

贈与による事業承継のメリット
上述のように相続は必ずしも事業承継に向いている方法とはいえません。

そのため会社株式や会社財産を後継者に贈与することで事業承継を行う方法が多く用いられています。

中小企業の経営者が贈与を用いて事業承継を行う場合には、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」という法律が適用されます。

その結果先代経営者の死亡以前に、経済産業大臣による要件充足の確認を受けた中小企業の後継者が、医龍武運を有する推定相続人全員との合意内容について裁判所の許可を受けることで、

後継者が先代経営者から贈与等により取得した株式等の全部または一部を遺留分算定の基礎となる財産に算入しないこと等が可能になります。

贈与による事業承継の留意点
贈与による事業承継を行う場合には民法上の贈与契約を締結することになります。そのため民法上の贈与契約の様式を備えていなければ、トラブルが生じたときに、贈与が否定され、事業承継がうまくいかない恐れがあります。

具体的には、民法上の贈与契約はものの引き渡しが条件となるため、単に先代経営者が株式や不動産の名義を後継者に変えていただけでは贈与契約の成立は認められません。後継者が贈与の事実を知り、株式の配当を受け取ったり、固定資産税を支払っていることなどが必要となります。

もし贈与契約の成立が否定された場合には、当該財産は先代経営者の財産となるため、先代経営者が亡くなった場合には相続財産となってしまいます。

そのようなトラブルを避けるためには贈与の契約書を作成した上で必ず贈与税の申告を行うなどの客観的な証拠づくりを行う必要があります。

まとめ

今回は事業承継の基本である、相続による事業承継と、贈与による事業承継について解説しました。事業承継の際にトラブルが生じたことで会社の経営にも悪影響が及んでしまった会社は数多く存在します。

そのため上記のような基本的な事項を理解し、事業承継に対する対策を考えておくことは経営者にとって必要不可欠であると言えるでしょう。事業承継については相続税や贈与税との関係でも留意すべき点は多く、それぞれの会社に応じた方法を選択することが、円滑な事業承継のために必要になります。

経営者の方や、その親族の方は事業承継について一度よく考え、必要であれば、弁護士等の専門家に相談するとよいでしょう。